移住先が決まるまでの経緯

北海道に移住しようと考えたものの、
移住先がなかなか決まらず二転三転・・・
その経緯

根室から屈足編

きっかけはオンラインのイベント

さて、私は道北の下川町に移住してきた
ただし、最初からこの地を目指していた訳ではない

北海道に移住すること自体は決めていたものの
それ迄ご縁があり
住みたいと思っていた土地が2箇所
いずれも道東にあった

当初、
移住先としては道東しか考えていなかった
残念ながら、
異なる理由から
いずれも移住の計画が頓挫する事になる

2箇所目が頓挫した少し後、
ネットで偶然イベントを発見する

それは、
道内20余りの市町村の移住担当職員が
横の繋がりを使って実施した、
オンライン北海道移住フェア

参加した全ての市町村の担当者と
個別にZoom面談が出来るという

なにか良い情報を得られるかもしれない
微かな直感を感じた

当時、移住の計画は
一時棚上げにしたほうが良いのかなと、
半分諦めムードに突入していた時期

でも、諦めずにチャンスを見出していこう!
という前向きの姿勢を崩さなかったことが
幸運を引き寄せてくれた

全ての参加自治体と個別面談が進む中、
自身の移住に関するこれまでの経緯や
希望する条件等を話すうちに
ご縁が何かを引き寄せてくれた

面談が半分くらい進む中で
名前すらよく知らないものの、
欲し条件がほぼ揃う
道北の小さな町と巡り合うことになる

そして、その週から
その町の移住担当者とあらためて個別に相談を進め
数カ月後その土地に初めて足を踏み入れることに・・・

最初に目指した根室

話は遡る・・・
最初に目指した移住先は
東の端、根室

北海道の中でも
特別な自然の魅力を感じる土地

初の訪問は2012年2月と、
10年以上に亘る
ご縁が続く土地でもある

当時私は、
双眼鏡関連の仕事をしていた

イベント出展者として
「ねむろバードランドフェスティバル2012」
が開催されるバードウォッチャーの聖地、
道東根室を
朝は-15℃まで冷え込む
極寒の2月初めに訪れることになる

ねむろバードランドフェスティバルは、
野鳥の宝庫道東で
魅惑の冬鳥を観察できる
バードウォッチャー垂涎のイベント

毎年1月終わりから2月の初めの週末に
根室市と市の観光協会が開催している

参考までに、こちらが最新の開催概要

オオワシやオジロワシなど猛禽類をはじめ、
イスカ、ベニヒワやユキホオジロなどを探しに、
根室半島や風蓮湖周辺のみならず
ツアーによっては野付半島や羅臼まで、
企画毎のバスツアーで足を伸ばす

鳥見好きにはたまらない企画が満載で、
北海道は元より関東や関西方面からも
コアなバードウォッチャーが駆けつける

さて、2012年2月に
このイベントに出展するため
イベント会場の道の駅「スワン44」に
初めてたどり着く

ブースの準備を終え
外に出てふと眺める
風蓮湖の凍てついた湖面と空

そこでは
想像する事すら出来なかった
夢のような色の空間を
体験することになる

日没寸前からそのショーはスタートする
凍てつく寒さのなか風蓮湖まで歩く

湖面の氷にゆったりと佇む野鳥が視界に入り
そこから徐々に視線を上げていく

湖面に積もった雪の白から
水平線まで連なる薄い青

視線を上げていくと
徐々に青は深みを増していき
頭上の濃紺まで変化していく
豊かなグラデーション。

息をのむ美しさ、
風蓮湖の青の世界に
引き込まれていく

その後、
根室の様々な土地を巡るうちに、
春国岱や根室半島に拡がる
荒々しくも凛とした自然に
次々と惹き寄せられていく

ご縁は続き、
同イベントへの出展や
旅で訪れること十数回

知人が少しずつ増えていく中で、
こんなところに住んでみたいな
という思いは深まっていく

転機の訪れ

そんな中、転機が訪れる・・・

当時勤務していたドイツ系の企業を
2021年3月
本社の事情で離職することになる

業務移管先の国内企業に転籍の話を頂くも
その会社で働く姿をイメージできず、
会社員としての生活を終わらせる事を決める

人生がリセットされた
そう感じた

有休が2ヶ月ほど残っていたので
その時間を使って
ゆっくりと人生プランを考えることにする

取り敢えず、北海道に行ってみよう
訪問先で移住実現のプランを考えてみよう

最初に向かった先は根室

2021年4月
仕事でお世話になった
根室在住の方を訪ね
移住の相談

その方も道外からの移住者
自分と同じ視線から
アドバイスをいただく

北海道移住そのものには
歓迎の意をいただくものの、
こと移住の地としての根室に関しては
肯定的な話を聞くことはほぼなかった

根室市は漁業が主産業の漁師町であり、
移住者にそれほどオープンな土地柄でない
というか、数も少ないし慣れていない

加えて、
移住者向けの住宅施設が不足気味
更に首都圏と2拠点生活をするには交通の問題が・・・

一番近い中標津空港はANAのみ就航
航空券が高額なことに加え
羽田行きは一日1便

釧路空港の選択もある
羽田便は増えるが
空港まで車で2時間半

自然がとても魅力的ではあるものの、
リモートワーク前提だと
考慮すべき要素が数多くあることを
あらためて認識させられる

その方に推薦されたのは、
道東で環境と利便性が両立している鶴居村

この村は移住の施策に力を入れており、
移住者向けの住宅も充実しているらしい

また、釧路市街や釧路空港にも近く、
買い物や首都圏への移動が便利

条件を聞く限り良さそうな印象
直ぐに村役場を訪問することにする

鶴居村には国指定天然記念物である
タンチョウのサンクチュアリがあり、
施設には仕事で何度も訪れたことがある
ただ、サンクチュアリ以外は初の訪問

村の中心部を訪れて気づくのは
その小洒落た雰囲気

昭和が冷凍保存(失礼・・・)されている
標茶町を経由して向かったため、
ヨーロッパの小都市の様な雰囲気は際立つ

村のシンボルに見えた
小洒落た図書館で休憩してから
村役場を訪れる

移住希望者が多く訪れているのか、
職員の対応も手慣れたもの

残念ながら、
自分の希望する条件を満たす
物件の空きが無かったので、
いったん鶴居村の話は棚上げとなる

新しい物件が出てきたら
連絡をもらえるリストに
メールアドレスと携帯番号を
残してきたものの、
残念ながらその後連絡は無かった

次に目指した新得町屈足

「ところでお仕事は何をされるんですか・・・?」

大雪山国立公園の南に位置する
東大雪湖の更に奥、
行き止まりとも言えそうな山奥にあるのが
トムラウシの集落

ここは登山好きにはトムラウシ山で有名
2018年の秋に北海道をドライブ旅行した際、
トムラウシ温泉とオソウシ温泉に入るために
この地を訪れる

トムラウシ温泉に行く途中
コーヒー休憩のため
「山の交流館とむら」に立ち寄る

ここで出会った管理人さんから聞く
この土地の自然や暮らしの一つ一つに
興味が膨らんでいく

その後も北海道出張の際、
車で旭川からトムラウシ経由で
帯広を目指したりする
ランチを食べるためです・・・
地図を見ると分かるが、もの凄い遠回り

2020年コロナで
出社義務が無くなったのをこれ幸いに、
4-5月と10月の2回に亘り
ともに10日程この地に滞在する

春の訪問時には
行者にんにくやこごみ等の
山菜採りに出掛けて
採れたての天ぷらを作ったり、
秋には現地在住のガイドさんに
十勝川でカヌーに乗せてもらったり
この地の暮らしを満喫する

2021年5月に
根室の話がいったん頓挫した後、
暫く移住に向けた動きを中断するものの、
年末辺りから
移住したいモードに再度突入していく

根室以外ではトムラウシが第一希望だったが、
残念ながらこの地域は移住しようとすると
現実的には容易ではない

山村留学制度を利用して、
保護者として小中学生と一緒に
移るのが現実的な方法である

小説家宮下奈都は
この方法でトムラウシに1年間移住

当時の暮らしぶりを
エッセイ「神さまたちの遊ぶ庭」
に残している

現地の人が事情に明るいだろうと思い、
秋の訪問時に知り合った
新得町屈足在住のガイドさんに相談する

屈足は新得町で最もトムラウシ寄りの地域
郵便局と小さなスーパーとセイコーマートと
ガソリンスタンドは各々1軒ある

ガイドさんも福岡出身の移住者
ガイドさんいわく、
新得町でも屈足と呼ばれる地域は
大雪山に近く自然も豊か

車で1時間も走れば
十勝の中心都市帯広に出られる

LCCは飛んでいないが、
AIRDOが就航する空港もある
買い物も病院も交通の便も
まず困ることはない、とのこと

何より山道を30分登っていけば、
トムラウシの自然を満喫できる

話し終わった瞬間
「屈足に移住したいモード」に突入する

早速、新得町の移住担当部署に電話を掛ける
移住者向けの住居について問い合わせると、
屈足に新築の物件があって募集をかけているところ!
という願ったりの回答

もう引っ越す気満々
すぐに申込み用の書類を取り寄せる

応募する直前になり、
詳細の確認のため再度電話をかける
問い合わせたこと自体は直ぐに解決したものの、
予想外の展開が・・・

「ところでお仕事は何をされるんですか?」
と、初回にされたのと同じ質問を受ける

「ネットを使ったコンサルティングが
メインになる予定です」
前回と同じ回答をする

「仕事自体はどこでされますか?」
「コンテンツの制作やZoomの打ち合わせは
公営住宅の中でやります」

加えて、
「そこで法人登記は出来ないことは承知しています
仕事場として使うだけです
必要になったら、別の場所に登記します」

担当者からの想像していなかった回答が・・・
「あの~、公営住宅はあくまで
住居として提供しているので、
そこで仕事をすることは出来ないんですよ。
この場合、別に事務所を借りて頂かないと」

「え・・・、仕事場として借りたい訳ではなくて、
自宅のリビングで仕事する状態になるんです。
そういう使い方は出来ないんですか?」

「規則として、公営住宅内で仕事する事は
不可という決まりになっておりまして・・・」

新得町にコワーキングスペースの様な施設は無く、
事務所を探すとなると帯広まで出ることになる

想定の斜め上をいく会話は終わり、
結局この話も頓挫することに

電話が終わったら投函しようとしていた封筒は、
果たしてどこに行ってしまったのか。

あらためて先述のガイドさんに
事情を説明して相談する

ガイドさんは当初公営住宅に住んでいたものの、
最初屈足のガイドツアーの会社で働いていたらしい

その後、独立した際に
中古の物件を格安で購入して
リフォームしたとのこと

屈足に中古物件はあまり出ないらしいが、
もし情報を得たら教えてもらうということで、
屈足移住の話はいったん強制終了となってしまう

そして辿り着いた下川町

諦めなければいつか何かを引き寄せる

屈足の移住が頓挫したことで、
北海道への移住計画そのものが
一時沈滞ムードに突入してしまう

他にご縁があった土地として
仕事で強い繋がりがあって
遊びでもよく出向く
知床財団が所在する知床半島があった

ただし、自分にとっての知床は
非日常的を楽しむための
「ハレの場」であり、
ウトロや羅臼が生活の場になる
イメージは湧いてこない

そんな中、とある2月の日曜早朝に
偶然移住関連イベントの広告を
ネットで目にする

クリックすると、
北海道のオンライン移住フェアが
その日の朝から開催される事になっている

それは道内20程の市町村で移住を担当の職員が、
横の繋がりを使って実施した
ボランティア開催のオンラインフェア

一部のコンテンツは
参加申込みが必須となっていたので、
慌てて申し込む

登壇していた市町村は
道南から道央までが多く
道東は弟子屈町のみ、
道北からは上川町と下川町

各担当者が手弁当で制作した
プロモーションビデオを見たり、
一つのテーマ(例えば買い物)に沿って
各市町村の具体的な状況が比較討論される

実際に住んでいる人の具体的話を聞けて
各地域の暮らしをイメージしやすい

嬉しい参加型のコンテンツもあった
希望者はZoomの機能を使った個別ルームで、
全ての市町村担当者と3分間ずつ話が可能
(主催者はお見合い方式と呼んでいた・・・)
もちろん参加!

もっと話をしたいと思った市町村とは、
イベント終了後に
個別相談の機会を設けてもらえる。

個別の相談は以下4つの町と進めることにした

道東で唯一参加していた(1)弟子屈町

車を買って初の長距離ドライブ旅行先として
東京からで目指した、
美しい丘が拡がる町、(2)美瑛町

2021年8月に大雪山を2泊3日で縦走した際
ベースキャンプを張った
沼の原が位置する(3)上川町

そして公営住宅内で仕事をしても大丈夫!
とその場でお墨付きをもらえた(4)下川町

弟子屈町は、
アウトドアライフを満喫できる聖地
としての魅力を感じていたので、
一番前のめりで相談を始める

しかし、移住者用の住宅は逼迫しており、
住まい探しは現地に出向いて自力で探すのが
前提となっている模様・・・
お試し用の公営住宅も、
コロナの影響でいつ再開できるか分からない状況
とのことで残念ながらいったん保留。

美瑛町は「青い池」でメジャーになってしまったのか、
今は移住者に人気の土地らしい
数々の瀟洒な中古住宅の紹介を受けていると、
最初に訪れた90年代とは
雰囲気が少し変わってしまった印象

それでも、美瑛は美瑛
美しく豊かさを感じさせる風景には
相変わらず惹きつけられる
何年か後に「やっぱり美瑛に引っ越す!」
と言い出しそうな予感は残る

上川町は、大雪山の大自然を身近に楽しめる立地
一方、いざという時は旭川市街まで車で1時間
趣味と実生活のバランスの良さを感じる

残念なことに、弟子屈同様の住宅問題があり
同じくいったん保留

ところで道北の雪の話
当初、道北は移住の対象から外そうとしていた
問題は雪

冬の間は降雪の日数も量も多く、
ほぼ毎日の雪かきが必須

以前、旭川のお客さんと交わした会話が頭をよぎる

「もし旭川に引っ越したいなら、うちの近くにいいのがあるよ
昭和の物件だけど、ちょっと手直しすればすぐ住めそうな一軒家
家主が居なくなるから壊すよりはマシというんで、
土地付きで90万円!庭もけっこう広いよ、見てみる?」

お客さんの家のすぐ近くにあるという物件を見に行くと、
古そうだけど最近まで人が住んでた気配があるし、
確かに少しリフォームすれば十分住めそう

なんといっても、旭川市街を見下ろす立地は
二階の窓からの眺めがかなり期待できそうである

いいな~と、ちょっとその気になった瞬間に・・・

「冬場の雪かきは基本毎日だよ!
たくさん降った日は朝夕の2回かな・・・」

「雪かきする時間帯の気温ってどれ位ですか?」

「うーん、日によるけど-10℃位だったら普通にあるよ」

「1回あたり1時間以上とか、掛かったりしますよね・・・?」

「そだね、いったん慣れちゃえば平気なんだけどね」

市街を林越しに見下ろす素晴らしい立地は、
国道からけっこう入ったところにあるため、
公的な除雪サービスも控えめになるらしく

雪国の住居探しは、
冬場の状況を
しっかりと把握しておく必要があるんだなと

閑話休題 下川町の話

旭川より更に80kmほど北にある道北の町は、
雪かきの話が頭にあったため、
個別面談の際、最初は前のめりだった訳ではない

しかし、会話が進んでいくうちに
気になっていたことが次々と解消されていく

●公営住宅は数量が豊富かつ定期的に空きが出ている&オンラインで情報公開されている
●公営住宅の仕事場利用は問題無し、既に実践者もいる
●除雪は国道に加え町の中心部も多目に入るので、道北の中では雪かきの苦労は少ない

丁寧な説明で不安な点が一つずつ潰される
移住先の候補として良いのではないかと、
気持ちが徐々にポジティブに傾いていくのを感じる

ただし、その場で決めるまでには至らず、
他の候補地も含め検討は継続する

説明を受け2ヶ月ほど経ってから、
町のオンラインイベントに参加する
2週間に亘って移住の体験をした
大学生のレポート発表があった

その学生のレポートは、
移住先としての下川町を判断するための
重要な参考資料となる

そこに登場するのは、
様々な思いを抱えて移り住んだ住民たち

自分のやりたいことを
自分なりのスタイルで実現しながら、
町に馴染んで生活を楽しんでいる姿が
紹介されていく

発表の後、
「地味だけどすごくいい町なんじゃないだろうか」
そういう感覚が芽生えてくる。

レポートを聞いた後、
町を訪問して移住先として
きちんと検討したいと伝える

2022年6月の3日間
移住定住センターのガイド付きで
町を訪れる運びとなる

無料のアクティビティを
2つ選べるオプションもついてきた

名寄川支流での釣り体験や
ポタリングに後ろ髪を引かれながらも、
「森歩きとエッセンシャルオイル作り」と
「町の移住者訪ね歩きツアー」を選択

出発の際は、
もし下川町に住むことになるとすれば
それも何かのご縁だろう、
と軽めの心持ちだったのを覚えている

自分と相性が良さそうな町と
いう感覚を持てるかどうか、
ここで決まりそうな予感がする

下川町訪問初日

とある6月の朝、
AM7時発の便で羽田から旭川に向かう

早目のお昼に鉢屋のらーめんを食べた後、
旭川駅からJR宗谷線で一路名寄駅へ

11:30に出発した一両編成のディーゼル車は
12:41に名寄駅到着

駅で待ち合わせた
下川町の職員と挨拶し、
まずライフラインの確認のため
車で名寄の町を巡る
病院、ショッピングモール、公共施設など

人口2.6万人ほどの町は
ミニマムなものこそ揃えど、
+αを求める場合は旭川か札幌まで
出向く必要がありそう

その後、国道239号線を東に30分ほど移動
道北特有の低い山々に囲まれた景色を眺めながら
目的地の下川町へ。

コモレビというモダンな施設に到着し、
(町のへそみたいな存在の様だ)
会議室に案内される

建物内は木材が多用され、
テーブルや椅子や間仕切りなどの調度品まで
統一されたテイストでデザインされている

おそらく、特産品である木材のショールーム
としても機能しているのだろう

会議室でテーブルを眺めながら
「何の木で出来ているんだろう?」と考えていると、
別の役場職員の方が現れる

用意された資料にアドリブを交えて、
町の概要を説明いただく

歴史・産業・気候・町の取り組み・移住関連情報など、
コンパクトで分かりやすい説明だった

ここまで来て、
この町とは相性が良いかもしれない
という感覚が湧いてくる

突出して目立つ何かは見当たらないが、
今後気になりそうな要素は無い
ネガティブな何かが突如出現しそうな気配も感じない

いったんコモレビを出て、
その日宿泊するお試し移住体験用の
ヨックルという施設に荷物を預ける

晴れていたし町中の雰囲気も知りたかったので、
暫し周辺を散歩することにする

「直径2km程の範囲に主要な施設が
ほとんどまとまっているコンパクトシティ」
という話はきっと本当なのだろうが、
人通りがまるでない真っ直ぐな道は
実際以上の距離を感じる

お買い物はどんな感じになるのだろうと、
取り敢えず2軒あるスーパーのうち
先に目についた1軒に入ってみる

ナショナルブランドの食品や雑貨等の製品群の中に、
地元産の生鮮食料品が混じる
典型的な地域密着型のスーパーだ

成城石井的な何かを求めなければ、
日常の生活を送るには
なんとかなりそうな品揃えである

17時から町のキャンプ場でジンギスカン!
という日程になっているので、
小走りで出発地のコモレビを目指す

ジンギスカンの参加者は4名
移住定住センターの職員2名と、
移住検討のため1ヶ月ヨックルに滞在している
東京から来た男性の方と私

到着すると、
オーナーが草刈り機でイタドリなど
払いながら待ってくれていた

キャンプ場とはいえ、
観光用に整備されたものというより
ほぼ自然の中

夕方の風と白樺林の枝葉が揺れながらたてる
ざわざわとした音が心地よい

移住検討中の方が
滞在中にお試しオプションで作った
バードコールで音を立てると、
近くで反応する鳥の声が聞こえてくる。

焚き火をおこし、
粗い鉄網の上にジンギスカン鍋を置く

道北は煮込むタイプの
ジンギスカンが主流と聞いていたが、
用意されたラム肉は
しっかりとタレ汁に浸かったもの
玉ねぎなどザク切りながら
道北スタイルで調理を開始する

6月中旬の北海道の夕暮れは
絵画的な光と風につつまれて
ビールが最高に美味しい

サッポロクラシック缶を片手に
みんなで鍋を突きながら、
暮らしの話題は尽きない

元々鹿児島の小さな町の出身なので
田舎暮らしの実情はだいたいイメージした通り

ただし、
冬の寒さは出張と旅で
旅行者としての経験しかないので、
-30℃まで下がると云われるここの気候は
生活の場として大丈夫なんだろうか
と不安は残る

職員の一人は鹿児島で学生時代を過ごし、
東京で会社員暮らしの後に
こちらに移住したとのこと

寒さに対する感覚は自分と近いものがあると思い、
色々と質問を重ねる
話を聞く限りは大丈夫そうな印象を受ける

ただ、実際に体験してみないと
分からないところが多いだろうから、
あとはその環境を楽しんでやろうという
感覚が湧いてくのかどうかかなと。

話は弾んで、
迎えの車が来たのは22時頃
キャンプ場を出る頃には
「この町に住んでも大丈夫だろう」
と確信に近い思いが生まれてくるのを感じる

下川町訪問2日目

朝9時に「森歩き」のガイドさんと待ち合わせ

宿泊施設まで車で迎えに来ていただき、ご挨拶する
この方は道内からの移住者

下川の町を一望できる山を目指し、林道を走る
途中で車を停めて、森歩きツアーのスタート

下川町一体は林業を主産業とすべく
一度全体的に開拓して、
トドマツやエゾアカマツ等の
針葉樹を植林したそうである

現在広葉樹の森になっているところも、
開拓後に再度自然林となったらしい
白樺はこういった状況下でのパイオニアで、
多く見られるところは
いったん開拓した目印と考えて良いらしい

植林されたトドマツやアカエゾマツの
深い森を進んでいく

辺りを木漏れ日が薄暗いながらも
柔らかく照らしている光景は、
映像で見た北欧の森のイメージと重なっていく

森林火災の際に消化用の水として溜めてある沼には、
覗き込むと多数の見慣れない生き物が

一匹網ですくって
小さなプラスチックの容器に移して観察する

不思議なかたちの生き物はエゾサンショウウオ
北海道の固有種とのこと

更に森の中を進み、
落ちた松ぼっくりから自生した
高さ1mほどのトドマツが密集しているところへ

通常は刈られていくそのトドマツの枝を、
ガイドさんと2人小ぶりのノコギリで無心に切っていく
集めた葉からエッセンシャルオイルを作るためだ
大きな袋はあっという間に満杯となった。

その後町の中心部に戻り、
天井の高いフレペと呼ばれる建物へ到着

建物内では
トドマツから抽出したエッセンシャルオイルが
商品化されて売られている

アイヌ語でトドマツはフプ、
「フプの森」ブランドと名付けられている

ガイドさんが見慣れぬ形状の蒸留器を持ってくる
蒸気をトドマツの葉に直接当てて蒸留する装置で、
様子を見ながら1回30-40分続ける

ちょっと欲しいかもと思ったが、
研究施設向けに作られている
少量生産の装置なので100万円以上するらしい

さきほど摘んできたトドマツの葉を
枝ごとガラスの容器に押し込んで、
熱い蒸気をトドマツの葉に当て続ける

深緑色だった葉は徐々に茶色に変色していく
暫しそのまま蒸留が進むのを待つ間、
辺りはトドマツオイルの香りに包まれていく

袋いっぱいの葉を集めて、
エッセンシャルオイルとして取れたのはは5mlほど

同時に生成される副産物としての
エッセンシャルウォーターは
ペットボトル1本分取れた

森歩きのガイドさんにお礼を言い施設を出ると、
町の移住者訪ね歩きのガイドさんが
建物内の駐車場で待っていた

この方も移住者
特殊な形状の小型宿泊施設を自力で設計製作し、
宿泊とガイドをセットにした観光業を営んでいるという

新しいガイドさんの車に乗って一路ランチへ
町の外れの方まで走っていくと、
古い農家を改築したカレー屋さんが出現

おそらく目が見えていないと思われる
老犬が入り口の近くに佇んでいた

店主は御年70過ぎの方、
若い頃は世界中をヒッピー旅行していたという
根っからの自由人

日本に戻り、彷徨った末に
ここが良いと住み着いた道北の田舎で、
旅先にてインド人に教えてもらったレシピで
カレー屋を始めたらしい

窓の外に拡がる牧草地を眺めながら、
マイルドながらもしっかりとコクのあるカレーを味わう

テーブルには旅先の写真アルバムがあった
昭和の色のプリントを眺めていると、
今は令和である感覚が薄れていく

町外れにあるカレー屋さんを後にして
向かったのはパン屋さん
一風変わったパン屋さんとのこと

モダンな建物の正面にある
大きなガラス戸を開けると、
中にはコンクリート打ちっ放しの空間に
立派なパン釜が鎮座している

この釜は薪を使って焼くタイプ
火力の調整が難しいと思うのだが、
この地でパン屋を始めようと移住してきた
オーナーのこだわりらしい

焼いているのは
カンパーニュを中心にパンドゥミやライ麦パン、
更にはスペルト小麦のクッキーなど
こだわりを感じる商品群

試食にクッキーを1個いただいたが、
隣の西興部村特産の
グラフフェッドバターが練り込まれ、
爽やかなコクと甘みを感じる

お店の裏は薪置場が占拠していて、
納品に来たのか丁度薪屋さんがいた
この町に1年滞在している23歳のチリ人で、
週末にはスペイン語の講座を
先述のカレー屋で開いているらしい。

次に訪れたのは染物屋さん。
町に自生している草や、
バイオマスの施設から出た灰を原料に
染色した布でスカーフなどを作っている

店内には淡く染まった
イエロー・ピンク・グレー・バイオレットなどの
商品が並んでいる
自然由来の優しい色合いに心がなごむ

店主はこの町出身で
東京で広告代理店に勤務した後にUターン
この地での広告業と二足のわらじで
染物に勤しんでいる

ここまで来て、
この町にはマニアックでちょっと変わった人を
引き寄せる磁場のようなものがあるのかと疑う

もしそうであれば、
多分自分は楽しめそうな気がする。

この日は町に唯一存在する昔ながらの温泉旅館、
五味温泉に宿泊

しっかり夕食を取るほど
お腹が空いていなかったので、
町のケータリング屋さんでお弁当を買うことにする

ケータリング屋さんもUターン組で、
「町にこんなお店があったらいいな」
を実現したらしい

並んでいるお惣菜は
メインも付け合わせも美味しそうで、
元々の意図を忘れつい大盛り弁当を買ってしまう
お惣菜は見た印象そのままに優しい味わいだった

その夜は微発泡性の温泉にゆったりと浸かって休む
旅の疲れが湯船に溶けていくようだ

下川町訪問3日目

翌朝、
窓からの朝日で5時頃に目が覚めたので、
6時過ぎから近くの散策を開始する

山の中に向かう10cmほどの草が生い茂る道を、
熊鈴を小さく鳴らしながら進む

早朝は鳥の鳴き声でいっぱいだ
わずかに感じる風と木漏れ日を楽しみながら、
緑の空間で朝の散歩を楽しむ。

山道を降りて温泉駐車場の奥に行くと、
先が鋭角に尖る低い三角形の建物を見かける

昨日の移住者訪問のガイドさんの本拠だった
直ぐ近くに広葉樹の林があり、
間に木道が見える

木道の脇は
段になった沼がずっと奥まで続いている
辺り一帯がビオトープとなっていた

沼は明るい緑色の藻で覆われ
広葉樹はその上に葉を落とし、
木道と樹の幹の茶色以外は
下面も側面も全て鮮やかな緑色だ

朝日は緑の沼の上に枝葉の影を落とし、
幻想的な風景を形づくる

水の流れる音や
鳥の鳴き声を聞きながら
木道を進む

途中、エゾリスや鹿が
突然目の前に現れてくる
グリム童話の世界だった

早朝の散歩から戻り、
昔ながらの旅館の朝食をいただく

玄関に出て少し待つと、
初日にジンギスカンを一緒に楽しんだ
移住定住センターの方が迎えに来てくれた

最終日は、
実際に住める可能性のある住居を
午前中に見に行く予定である

この町には不動産屋が無く、
公的サービスとして
中古物件の仲介をしている

加えて、近々募集がかかる予定の
公営住宅の案内も役場の担当者が
現場に連れて行って説明してくれる

午前中いっぱいかけて、
中古物件を3件と
公営住宅3箇所を案内していただき、
下川町ツアーの全日程を終了した

下川町を去る時には、
案内してもらった公営住宅のひとつに
直ぐ申し込もうと決めていた。

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