下川町ってどんな町?
現在、私が住んでいるのは道北の下川町。
この地名を聞いて
場所がピンとくる人は極めて稀な筈
私も移住を検討するまでは、
どこにあるのか分かっておらずで・・・
北海道の中心都市は人口約200万人の札幌で、
道北の核となるのは人口約33万人の旭川
札幌の1/6のサイズ
漫画「ゴールデンカムイ」で、
鶴見中尉率いる第七師団の本拠地があったところ
と書けば、思い出してくれる人が増えるのかも
その旭川から車で1時間半ほど北上すると、
冬はシルキースノーに覆われる、雪質No.1の町
人口2.6万人の名寄市に辿り着く
更に30分ほど東(オホーツク海側)に移動すると、
森に囲まれた林業の町、下川町となる
ちなみに、
村上春樹の小説「羊をめぐる冒険」で
別荘の舞台になったと云われている
美深町仁宇布地区は、
車で一時間ほど北上したところ
この小説を読んだ人には
周辺のイメージがつきやすいのかも
下川町の人口は3,100人ほど
かつては、人口が減り続けて
廃村の危機に陥ったこともあるらしい
町をあげて移住者を増やす様々な施策をうち続け、
現在は北海道の中でも
特に移住定住に力を入れている町と認知されている
移住関連情報で満載の公式HPもあり、
ここを見るだけでも取り組みの本気度が伝わる
町自体は絵に描いたコンパクトシティで、
直径約2km程の範囲に人口の8割ほどが集中している
公共施設やお店などもほぼこの範囲にあるので、
町中心部の移動は車要らず
その為、呑んだ夜に歩いて帰宅が可能!
といった意味合いで
稀有な北海道の田舎町となっている
北海道の田舎暮らしに
自動車(出来れば四駆)は必須と思われがちだが、
運転できないので
敢えてここを移住先に選んだという人もいる
移住してから気づくのは、
知り合う人にとにかく移住者が多いということ
町に住む40代の8割方は移住者らしく
しかも何らかの明確な意図を持って
ここに移り住んできた人が多い印象を受ける
当初知り合った人を例に挙げても、
家具の修理屋さんに薪屋さん、
その薪を使って焼くパン屋さん、
森の活用に関わるNPO法人の代表など、
森林の町らしく
「森と木」と関連する事業で起業した人多数
この町の魅力を外に伝えようとしている
移住者が多いこともあって、
外から来た人にかなり寛容な印象を受ける
ここは冬の寒さも特筆物
道北の内陸部は冬の間とても寒いのだが、
下川町もしっかりと-30℃まで下がってくれる
首都圏住まいの人は、
「雪が降ると寒い」
といった印象を持っている人が多いのではないかと思うが、
北海道の人は
「今日は雪が降ってるから、なまら暖かいね~」
なんて会話が一般的
寒くなるのは、晴れた日の翌朝。
日没前に雲がないピーカンだったりすると、
放射冷却現象で夜の間に一気に気温が下がり、
夜明け前には凍てつく-30℃まで達するようだ
個人的には、
-15℃位まではまだ大丈夫な感覚があるのだが、
屋外で-20℃を下回ってくると
「命の危機」という言葉が頭をよぎる
そんな寒い冬でも、
住民が楽しみにしているイベントが
例年2月2周目にある
「アイスキャンドル」
という単語を聞いたことがある人は
どれ位いるのだろうか?
バケツを使って大きな氷の器を作り、
その中にロウソクの光を灯す
これだけ聞いても
「ふ~ん」で終わってしまうかもしれないが、
何百何千というアイスキャンドルの灯火が
一斉に冬の夜にゆらめく様は圧巻である
ー20℃に迫る夜に、
一面をろうそくの光が包み込む景色を
自分も心待ちにしている。
今住んでいる住居について
「移住先が決まるまでの経緯」で
下川町について概要を説明したが、
ここでは現在住んでいる住宅に決めるまでの
経緯について説明していきたい
下川町は北海道の田舎では珍しいコンパクトシティで、
直径2km程の範囲に人口約3,100人の8割方が居住している
つまり、町の中心部に行けば
それなりに住居は集中している
公営住宅もほぼこの範囲に収まっており、
小さな子供やご老人のいる家庭には
優しい町となっている
移住を検討していた2022年6月、
町役場担当者にコンパクトシティ内の
公営住宅3件を案内いただいた
住みやすそうな間取りや、
北国の割に窓面積の大きなリビングを見て
心動かされた
周囲の環境も静かそうで、
一日家で仕事をするのに不都合は無さそうだ
ただ、良いなとは思っても
「ここでなければいけない」
といった感覚までは湧いてこなかった
もっとも、「移住先が決まるまでの経緯」の項で書いた
新得町の公営住宅に入れなかった経緯があったので、
ここで十分だろうと言い聞かせている自分に気づいた
でも、何か引っ掛かるものがあった
翌月から募集が掛かる公営住宅の中に、
2kmの範囲から大きく離れたものがあった
町が実験的に作った、
バイオマス燃料でセントラルヒーティング等の
熱供給をしている住宅群の一室だった
敷地取得の関係で
町中から離れて造成した地区にある
「その住宅も念のため見てみたい」旨
担当者に希望を伝えた
この住宅は町役場の管理部署が異なっていた
案内を別の担当者に引き継がれ、
車で15分掛けて連れて行っていただいた
森の中を15分走り抜けて辿り着く
途中に目についたのは数件の牧場だけだった
道産子馬が静かに佇んでいる風景が印象的だった
辿り着いた地区には、
ヨーロッパ的な雰囲気の住宅群が広がっていた
敷地内にコンビニやスーパーなどは見当たらなかった
四方は道北特有の低い山に囲まれている
住宅の後方には、
植林された針葉樹で埋め尽くされた山々が、
前方には、
白樺などの広葉樹も含む雑木林の丘の様な低い山が
その地域界隈の雰囲気は
小学生の頃、地図とコンパスを両手に
オリエンテーリングした林間学校を思い出す
訪問時にに空いていた部屋を見せていただく
全ての床と壁の下半分に木材が使われている
町で算出された木材を使っているのだろう
なんとなく北欧やカナダの住宅を
彷彿とさせる雰囲気だ
リビングの窓も大きく、
開け放つと山の心地よい風が入ってくる
ここでは空気清浄機は不要だろう
各部屋には、
ヨーロッパの住宅でよく見るタイプの
パネルヒーターがある
お風呂や台所の給湯も同じ熱源らしい
このシステムの使用量は固定で、
夏・冬と部屋のサイズで異なる
暖房費が気になる北海道だが、
冬場でも8,000ー10,000円と
灯油ストーブの3割程のランニングコストだ
しかも初期費用が一切掛からない
更に素晴らしい話を聞いた
国道のすぐ脇に駐車場があり、
車から降りて20-30m程歩くと
住宅への入り口だ
その入り口から各住宅までは
全て内廊下で繋がっている
つまり、
雪かきの苦労がミニマムで済みそうなのだ
北海道では道路の除雪は、
管理者によって違いが出る
一般的に、国道>道道>市町村道の順で
除雪の頻度が高くなる
元々は、道東の自然が豊かなところに
住みたいと思っていた
下川町は道北に位置するが、
この地域と物件には自分の欲しい物が
一通り全て揃っている
別に道東にこだわらなくてもいいのかなと
もしかして、
今は道東に住むタイミングではないのかもしれない・・・
町役場に戻る道を走る車のなかで、
具体的な応募の手続きについて
詳しい説明をいただく
7月の募集開始後、
直ぐに書類を揃えて送った
8月初めに居住可能の通知が届く
8月中は引越し先で必要なあれこれを買い揃えた
訪問時の印象が強く残り、
小物はほとんどIKEAで揃えた
8月30日には車に載せられるだけの荷物を載せて、
大洗港から苫小牧港向けのフェリーに乗り込んだ
快適な航海だった
8月31日のお昼に苫小牧港に着き、
その夜下川町に到着
町の宿泊施設「結いの森」に泊まり、
9月1日から下川町での移住生活が始まった
6月の初訪問から2ヶ月半後のことであった。
野鳥を身近に感じる生活
前職のドイツ系企業では、
コンシューマー向け光学製品の
セールスとマーケティングの統括をしていた
とは言え、
家電量販店の店舗訪問以外は
ほぼ一人でこなしていた
扱っていた製品は双眼鏡とライフルスコープ
共にハイエンドの製品で、
双眼鏡のユーザーは
バードウォッチングを趣味や仕事にしている
人たちがほとんどであった。
仕事でバードウォッチングとの関わりは長く、
新卒時に勤務していた日本の光学製品メーカーでも
双眼鏡を取り扱ったことがある
当時、バードウォッチング専門誌とのコラボイベントで、
奥多摩の森を巡っているうちに
一人で迷子になったのが懐かしい
前職のドイツ系企業でも
根室のバードランドフェスティバル等に
出展社として参加したり、
業務で根室・釧路周辺や
野付半島に鳥見に行ったこともある
ただ、仕事でバードウォッチングをしていた時は、
鳥を見る行為そのものよりも、
野鳥が生息する自然環境を楽しんでいた
それまで、仕事以外でバードウォッチングに
出かけたことはない
ところが、下川町に引っ越してきて、
趣味がバードウォッチングになった
とにかく自然が本当に近いのだ
移住前から気分転換は散歩で、
というのが日課だった
以前に住んでいた千葉でも近所に
丁度よい散歩コースがあった
下川町でもこの日課は続く
千葉と異なるところは、
散歩中に様々な鳥の声が聞こえてくるのだ
しかも、目の前の木の枝や草むらの中にいて、
双眼鏡が無くても十分目視で観察できる
ここまで近距離で野鳥を見ていると、
あれは何という鳥なんだろう?
とつい気になり知りたくなる
鳥を見かけたら、
前職で参考のために買っておいた
野鳥図鑑で調べることが頻繁になった
それと分かる鳥もいるが、
半分以上は判別できない
知りたい欲が増幅していく
こうやって、いつの間にか
バードウォッチングが楽しみとなっていた
因みに、この界隈にはシマエナガがたくさん居る
たまに群れを発見するが、
丸っこい姿で枝にとまっているのを見るとほっこりする
ある朝の事件
部屋の窓から白樺や雑木林が見渡せる
ザ・北海道という景色を楽しもうと、
日中はカーテンを開けておくことが多い
窓のガラスを認識出来ない鳥が、
たまにそのまま突進してくることがある
かなりのスピードで飛び込んでくるので、
ぶつかると結構大きな音が響く
ある日の朝、
正面に向かって飛び込んでくる物体が
視界に入ってきた
次の瞬間には、ドンという音とともに
窓の前にある木製のベランダに
白黒の鳥の姿が見えた
腹ばいになって寝た姿勢のままピクリとも動かない
頭頂部が赤く、羽はチェックに似たお洒落な柄だ
頑丈そうなくちばしも見える
オオアカゲラの幼鳥であった
窓ガラスに寄って覗き込むと、
くちばしと目が微かに動いているのが確認できる
どうやら脳震盪をおこしているようだった
カラスなどに狙われないように見張った
30分ほど経つと、
意識を取り戻したのかむっくと起き上がり、
頭をブルブルっと振って飛び立っていった
その2週間後のこと
お昼をつくろうと台所で準備していると、
この前よりだいぶ大きな
ドーンという音が響いてきた
もしやと思い、ベランダを見ると
この前より随分大きな茶色い鳥が
腹部を上にしてひっくり返っていた
鋭く尖った足先とカギ状のくちばし、
オオタカの幼鳥だった
猛禽類をこんなに間近で見られることに驚いた
流石にオオタカを狙う鳥はいないだろうと、
今度は料理をしつつ5分毎に様子を見にいくことにした
15分程経つと反転して背中が上になっていた
ただし、まだ立つことは出来ないようで、
じっとそのままうずくまっていた
そして30分後、
様子を見に行くとしっかりと立っていた
しかしまだ本調子ではない様子で、
周りを警戒しながら首を動かしている
ガラス越しではあるが、
50cmもない至近距離で眺めるオオタカには、
凛とした迫力を感じた
その姿勢で30分ほど過ごした後、
意を決したように飛び立っていった
道北の山の中は、
道東に負けず劣らず野鳥の観察に適した場所のようだ